写真・文責:今野滋(東海大学)
久々の再開。2022年度第1回物理教育実践交流会が、2022年12月10日(土)、札幌東高等学校図書室にて開催されました。参加者は、12名でした。
コロナの影響もあり、ITを活用した実践報告が多く、実験実演の発表が1件のみとなっています。
会場の様子
まずは、横関直幸先生(札幌清田高校)による開会の挨拶から。
1. 飯川大輔先生(えりも高校)
飯川先生は、学生時代、弘前大学で宇宙物理学・重力波などを研究されていました。
教員になってから3年目。初めの1年は時間講師として勤務。
この3年間の取り組みの中からいろいろ紹介していただました。
- 車のスピードメーターの前に加速度計を置いたビデオ教材を作成
- 体育館で放物運動:高いところからボールを2つ、水平投射と自由落下を同時に行う動画を作成
- 教科書会社によるアニメーションでは同時に落ちるが、実際にやってみると、水平投射の方が後に床に達する。生徒に考えさせる良い機会にもなるだろう。
- 会場から:ボールの色を工夫すると、もっと見やすくなるだろう。
- 熱と温度の違い:解答を分類して発表。付箋にしてカテゴリー別のエリアに貼っていく手法。
- 調理室で100℃のほうれん草を30℃の水に入れてみる
- 家庭科の調理室を使用。ほうれん草の質量は、湯に入れる前に測る。茹でた後のほうれん草は教員が食べて処分した。
- 会場からのコメント:他教科との連携もとれるのでは
- 便利なソフトウエア紹介
- Canva:スライドを作るのに便利。スライド作成用の素材が豊富。
- グッドノート:画面の中に板書にするように書き込みができる。
グットノートで書き込みながら口頭で説明している様子を動画スクリーンショットし、授業ビデオを作った。
- 授業での悩み
- 時間が足りない:4単位の中での時間配分をどうするか? 例題は黒板に書かずにプリントで対応。実験をしている時間がない。
会場よりコメント:
- 評価方法について:「主体的に取り組む態度」とは、何をもってABCを評価すればよいのか?
会場よりコメント:
- 得点の基準を予め明示しておく。
- 疑問点を提出させる。気になる“はてな”があったら授業に生かす。はてなの質が重要。感想を書くのはしない。
- コミュニケーションツールとしてGoogleスプレッドシートで共有ができるので授業の振り返りを書かせている。
- 評価には以下の2つの軸がある。また、振り返りシートを用意しておく。
- 1,知識及び技能を習得したり、思考力、判断力、表現力等を身に付けたりすることに向けた粘り強い取組を行おうとする側面
- 2,その粘り強い取組を行う中で、自らの学習を調整しようとする側面
- 生徒どうしの相互評価。グループ学習にてグループ内で以下の項目に最も該当する生徒に投票する。ただし、自分に投票しないような工夫は必要。
- わからないところを、わかりやすく教えてくれた。
- 結果を出すことに最も貢献した。
2. 菅原陽先生(立命館慶祥高校)
- プラスチックバネの実験(フックの法則とバネのエネルギー位置のエネルギー)
- 形状記憶合金ほか、実験用物品の紹介
- ビー玉ブラックホール実演セット紹介(ビデオのみ)
- ゆめ科学ネット ウェブページ紹介
- 来年の科学の祭典開催案内 道内4ヶ所で実施する予定
菅原先生は数多くの演示実験を精力的に開発され、授業に生かすだけでなく、道内各地の科学イベントで科学のおもしろさを子供たちに伝える活動を続けている。この活動を引き継ぐ後継者がそろそろほしいとお話しされていた。
プラスチックバネの実験(フックの法則とバネのエネルギー位置のエネルギー)
- 100円均一で購入した丸い鉛筆に、プリンターで作成したメジャーを貼り付ける。
- コイルは一定の長さに切り、端を折り曲げます。
- 鉛筆を垂直に立て、コイルを引っかけて飛ばす。
- コイルの伸びの値と、跳ね上がった高さを測定し、関係を調べる。
- 比較的短時間で(20~30分)で、バネのエネルギーと位置エネルギーの変換データが10個程得ることができる実験。
- グラフを書く訓練にもいいかと思われる。
(伸び\(x\)に対する上昇高さ\(y\)(\(\fallingdotseq\frac{ k }{ 2mg }x^2\))のグラフと、横軸を\(x^2\)に取り、直線のグラフにする。)
- 統計的なデータ処理の体験ができる。
- 8チームの実験とすると80個のデータが集まり統計処理する経験ができる。
その際、教師は各チームからの報告データをエクセルに入力しながら、グラフを大画面に写すと、各チームの結果のグラフを見ることができる。
個々の実験の多くは実験誤差のため比例直線からずれるが、平均値を強調したグラフも同時に重ねておくと、統計的な効果でほぼ直線になる。
菅原先生の10年間の生徒実験では相関係数の\(R^2\)値はいつも0.99付近になった。
エクセルの散布図グラフのオプションで自動でグラフ表示でき、また、\(y=x^2\)の横軸2乗の直線の式も表示できる。
- データ数を多くとると統計的効果からも法則を確認でき、同時にバネ定数の理論値のグラフと、統計処理した実測値のグラフの傾きの差が大きくでる。
そしてバネのエネルギーが位置エネルギーの変換効率がわかる。
そして「損失分の原因は何か」の議論に発展する。
ビー玉ブラックホール実演セット
透明のプラスチックの板を加工して、
転がる玉の運動が惑星の運動を模した装置を作っている。
製作費は1セット1万円程度とのこと。
tok財団の補助を受けた装置の制作(10個程度)をするので
学校からの希望があれば、(取りに来られる範囲で)配布可能とのこと。
1つは会場の東校に寄付された。
大きさは一辺1m程度。
- 摩擦や球の回転や上下方向の速度成分があるので、惑星の運動を完全には再現しない。中心に近くなるほど早くなる動きを再現したものである。
- ポテンシャルの再現という意味では、|高さ|を中心からの距離に反比例させるべきだが、見た目のわかりやすさを重視して、距離の2乗に反比例させてある。
- 「ブラックホール」というのは、もちろん言葉の綾。
3. 杉浦啓介先生(有朋高校)
道立高校において、地域の小規模校を中心に教員が少ないことなどにより、大学進学等の進路希望に対応した教科・科目の開設が困難な状況にある。
そのため、昨年度(令和3年度)から、地域の小規模校に対し、単位認定を目的に、生徒のニーズに合った教科・科目にかかる授業を遠隔配信する「北海道高等学校遠隔授業配信センター
(T-base)」が有朋高校内に開設された。
T-baseの遠隔授業への取り組みは、北大をはじめ様々な教育機関が視察が来るなど注目されている。
そこで物理の授業を担当されているのが杉浦先生。杉浦先生は、現在(2022年)、四ヶ所の高校に授業を配信している。
よく使われている遠隔会議システムZoomなどでは、画面の隅っこに講師が小さく現れるが、
これとは別に、しかるべき道具を使うと、講師が画面の中に入り込むことができる。
つまりパソコンで表示している資料の中に講師が入り込む。
隅に小さく表示されるのとは違って、
講師の姿が大きく見える方が、生徒が教師の目線等を追いかけることができるので解りやすい。
さらにそれらにタブレット端末を追加して、板書に線や図を書き込むように、画面の中に図形や文字を書き入れる事ができる。
これを可能にしているのが複数の画像リソースを合流させるスイッチャー(ATEM Mini)とその附属のソフトウエア(製品サイトからダウンロード)。
切り替えるだけではなく、重ねる事ができる。
パソコン内部の資料に、グリーンスクリーンにより背景を透明化(
クロマキー)した講師を重ねる。
4. 今野滋(東海大学)
- 著書の紹介
- 遠隔対面ハイブリッド対応、グループ学習支援システム
- 一緒に教科書作る人募集
著書の紹介
今野は7月末に本を出した。その名も
超光速への道。
北大での講義の経験も踏まえて、高校から大学初年度までに習う物理を、力学と電磁気学を中心にもういっぺん基礎の基礎から洗い直そうという企画。
はじめに光速突破の意味を問い、前半は、力学と電磁気学を組立て、後半は、主に相対性理論で相対論的な重力場の方程式であるアインシュタイン方程式に至る。
教科書で多数を占める内容の受け売りではなく、本質を深く考えてある。
完成済みの理論を読者に覚えさせるのではなく、理論を組み立てる姿勢を重視した。
前半部は高校の授業でも参考になるので、オススメする。
遠隔対面ハイブリッド対応、グループ学習支援システム
2019年から2020年にかけて、今野は北大の物理の授業で使うために、
以下の手順でグループワークを進めるウェブアプリケーションを開発した。
- 問題を開示してグループワーク開始
- 相互閲覧:答案書き込みを〆切る。他のグループの答案が閲覧可能になるので学生はそれらを読む。この間、答案を読んで理解が難しい場合は答案を作成したグループに質問する。質問されたら必ず説明する。さらにこの期間は自グループの答案の補足が可能である。つまり初めの答案が不正解であっても、ここで気付いて正解を書けば、採点結果には正解として反映される。
- 相互採点:まず正解と採点基準が開示される。答案の補足は閉め切られる。答案がランダムに5つづつ学生それぞれに割り当てられ、学生はそれらに対して採点を実施する。点数の根拠は必ず書かなければならない。不真面目な採点が教員によって見つかった場合には、採点は 取り消され、採点行為が得点にならない。採点結果は平均四捨五入され、各グループのメンバーに得点として配分される。
- 最終〆切り。採点結果など教員がチェック。得点 が集計される。必要なら教員が得点を修正できる。
授業中の発問など、スピードが必要な場合は、2の質疑応答・補足と3の相互採点を省略し、
各グループの答案をスクリーンに出しながら教員が講評を交えてその場で採点することができる。
教室内で答案を共有しつつ、答えてすぐに採点されるので学生の印象も良い。
- 端末は学生各自のスマホやパソコン。今や学生のスマホ普及率はほぼ100%であり、また学内にWi-Fiが完備されていることにより実現できた。
- ウェブアプリケーションにつき、対面とリモートが混在する環境にも対応できる。
さらには宿題にして、授業時間外でのグループワークにも対応できる。
- このやり方を実現させるために他に以下のシステムを構築した。
- 座席予約システム:授業開始時間までに着座する位置とグループ内での役割を予約する。着座位置で、どのグループになるのかが確定する。リモート参加の学生も座席を予約する。
- 相互投票システム:グループ内で以下の条件を満たした者に対して投票を行う。
投票して1点、投票されて2点獲得。つまり4人組で最大7点獲得となる。
これにより「主体的に取り組む態度」を評価することができる。
- わからないところを、わかりやすく教えてくれた
- 課題の内容と社会の関わりを調べて教えてくれた内容がためになった
- 結果を出すことに最も貢献した
- 出席確認システム:学生からの要望につき追加。授業時間内に発行された数字を入力。
- 答案の入力にて、数式の入力には MathJax を用いた。これはJavaScriptにて動作し、htmlの中に TeX を埋め込むものである。
TeXというと難しそうだが、ほとんどの数式が分数や平方根など種類が少なく限られているので、学生は思ったよりも容易に適応した。
※ このグループワークの方法は2019年夏に今野が酪農学園大学の遠藤大二教授から教えてもらった方法を基礎として改良を重ねたものである。
遠藤先生に深く感謝する。
なお、残念ながら、オリジナルである遠藤先生の取り組みについて書かれた文献は存在していない。(今野)
一緒に教科書作る人募集
超光速への道をベースにして、
道内入試偏差値50程度の私学で普通に使える物理の簡易な教科書を作ることを画策中。
一緒にやる人、この指とまれ!
余談
図書室で例会を開くのはおそらく初めてと思われます。何かの時には司書室からペンチもドライバーも絆創膏も出てくる頼もしい図書室でした。
会場スナップ
「終了後も、時間ギリギリまで個別に情報交換をしていました。久しぶりの交流の場の価値を改めて感じます。」(菅原先生、談)
※ 登壇頂いた先生方から記事の補足や訂正箇所の指摘をいただきました。ありがとうございます。
ビー玉ブラックホールの写真と私が写っている写真は、杉本先生(札幌東高校)から、ご提供いただきました。
ありがとうございます!(今野)